2019年06月16日

入れ歯と摂食嚥下

高齢者が、今まで使っていた入れ歯を、いろいろな理由で使用を中止する場合があります。

入れ歯をはめていると、強く当たる部分がでてきて痛い、また入れ歯が壊れたりしたけれど足腰が弱って、歯科医院に通院できなくなったとか、

病院に入院して、その病院の方針として一律に入れ歯を外してもらうことになっている(私の父が入院していた病院はそうでした)とか、その他いろいろな理由があるとおもいます。

歯科の観点からは、入れ歯をはずすと摂食嚥下の点で、かなり不利な状態となります。

 

咀嚼筋などは、最大にでる筋力の20%~35%のチカラをかけて日頃、生活することが、筋肉をその状態に維持するために必要です。

35%~50%のチカラをかけると筋力アップに有効ですが、逆に20%以下のチカラしかかけないと筋肉が痩せていきます。

入れ歯で食事をしていた人が、入れ歯がないために、ミキサー食などのドロドロ食に変えれば、20%以下のチカラしかかけていないことになりますので、咀嚼筋はかなり痩せて(廃用)いってしまいます。

1ヶ月も口から食べない状態が続けば、筋力の衰えは以前の半分 近くになると言われています。

さらに時間とともに廃用が進み摂食嚥下の点で大きな問題がおきてきます。

 

また今まで使用していた入れ歯を突然、使用しなくなると、噛み合わせが極端に低くなってしまいます。

これは口腔(口の中)の容積が、小さくなることを意味します。

口腔の容積が小さくなれば、舌の可動範囲も小さくなります。

その舌の可動範囲が小さくなる状態が続けば、最終的には、舌が実際に動かなくなります。

どの程度動かなくなるかは、人と経過時間によって ちがいますが、一般的には、赤ちゃんの離乳食期の初期から中期ぐらいの頃の舌の動きになります。つまり、舌が前後には動くけれども、上下にはなかなか動かない、そして左右には全く動かない状態となります。

高齢者のこういう舌の動かない状態で、以前の入れ歯をいれたり、いきなり新しい入れ歯を作っても、使いこなせなくなります。入れ歯使用を中止する前まで使っていた入れ歯や新しい入れ歯をつかいこなすためのトレーニングが必ず必要となります。

 

また特に上顎の入れ歯に関しては、上顎の入れ歯を外していると、上くちびるが内側に(口の中に)巻き込まれたように見えて上くちびるは、かなり痩せていきます。

上くちびるの役割の一つに、コップで、例えば牛乳をのむとき、上くちびるでコップから口の中にはいる牛乳の量を、かなり無意識に調整するというのがあります。そのために牛乳を飲んだ後はミルクマスタッシュ(上くちびるの上に口ひげみたいな白い線ができます)ができます。

上顎の入れ歯を使用しないと、この液体が流れる量を調節する機能、つまりそれができる筋力がうしなわれ、食べようとする最中に口の中から外に食べ物がでてしまうようになります。

以上の事から摂食嚥下そして、生活の質を下げないためには、義歯の使用を中止しないということはたいせつです。

大阪大学歯学部の舘村卓歯科医師は、ICU(病院の集中治療室)に入院中の患者さんでも、できるだけ早く上顎の入れ歯を入れる事を提唱しておられます。