誤嚥性肺炎は歯科医師にとっても、大きな関心がある病気です。その理由は、高齢者肺炎の8割は、誤嚥性肺炎で、この誤嚥性肺炎の大多数は、口の中の細菌が原因だと言うのがわかっているからです。また、歯科などにおける、口腔ケアでこの誤嚥性肺炎を減少させることができるというのが証明されています。
この誤嚥性肺炎で入院後、摂食嚥下障害になることが多いという報告がよくされています。
もう10年近く前のことですが、私の父も、誤嚥性肺炎を繰り返すごとに、食べる機能が衰え、最終的には胃ろうとなりその後しばらくして亡くなったのを思い出します。
家族として辛かったことは、病院から禁食を言われていて、その間、父がずっと「食べたい、食べたい」と子どものように執拗に言っていましたが、何も食べさせてあげれなかったことが、今でも心残りな面です。当時は、半年しか生きれないのならどうして、好きな食べ物を、病院に方針に反してでもあげなかったのか、後悔していました。
最近、歯科の講演会で、この誤嚥性肺炎、摂食嚥下障害に関するものが、よく開催されています。(摂食嚥下障害は歯科の治療分野ですが、誤嚥性肺炎は、歯科での直接の治療対応分野ではありません内科分野です)
先日、愛知医科大学の内科医師の前田先生を講師とした歯科講演会に参加しました。
講演の内容は、誤嚥性肺炎後の摂食嚥下障害についてでした。
DPC病院での1年3ヶ月間のデーターを元に統計的に、バイアスがかからないようにして要所要所で適切な統計処理をして得た結果ということです。
それによると、誤嚥性肺炎で入院前に、口から問題なく食べていた人(経口摂取)で、入院中、口から食べることを禁止されたひと(禁食)66611人中30日後に3食経口摂取(口から食べれなかた)できなかったのは41.0%だったということです。
これを4つの要因から分析考察しました。
①肺炎の重症度
②禁食との関係
③栄養管理
④床上安静
です。
①肺炎の重症度に関しては、A-DROP、その他の項目を分析すると、やはり肺炎の重症度が高い人ほど、摂食嚥下障害がおきる可能性が高くなったということです。
②禁食との関係では、 誤嚥性肺炎入院中に禁食とすると、治癒になるのに時間がかかる、また、生命予後をわるくする、つまり、死亡率をたかくする、経管栄養管理での退院になる可能性を高めるということです。禁食中には、歯科的には、唾液が減少して、口腔内細菌叢が悪化します。禁食中の人からは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),
腸球菌、セラチアなどのからだに良くない細菌が、口腔内から高率に検出されます。
そして、明らかに、摂食嚥下障害の可能性がたかくなるという結果がでています。
③栄養管理では、経口摂取群は栄養摂取量が多く、禁食群は栄養摂取量がすくなく、禁食群では摂食嚥下障害の可能性がたかくなる
④床上安静 安静にしていると歯科に関係する咀嚼筋、オトガイ舌骨筋などの萎縮がおこりる。特にオトガイ舌骨筋の面積が嚥下と深く関連している。それにより、摂食嚥下障害の可能性が高くなる。早期リハビリが有効
ということでした。
前田医師によると、誤嚥性肺炎で入院中は、可能な限り早期に経口摂取を開始(1日にゼリーひと口でも)、リハビリを開始すると、その後の摂食嚥下障害が起こる可能性を低くする。
「とりあえず禁食」は避けるべきということだそうです。